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「ぬしはどちらの方でありんすか」
高尾は彼の緊張をほぐしてやろうと、そう訊ねてみた。
が、彼が何と答えるかと思えば「あいよ、あいよ」と鷹揚(おうよう)さを装うように言うだけだ。
この「あいよ」は、お大尽が返事をするときに使う言葉である。これでは話が通らない。
他にもいろいろ話をしてみようと試みる高尾だったが、彼が返す言葉はなぜかすべて「あいよ」なのである。
何だか高尾は可笑しくなって、ついに笑ってしまった。
するとその顔を、男は惚けた表情で見ている。
どうやらよほど高尾の美しさに惚(ほ)れているのだろう。
上から横柄に口説いてくる豪商や大名よりも、この男のほうがよほど可愛げがあって、高尾もいちげん客以上のもてなしで応じることを決めた。
「ぬし、煙草をどうぞ」
キセルに葉を詰めて高尾が吸って火を灯し、男に渡す。
男はまた例の「あいよ」で、それをうやうやしく手にとった。
その指を見て、高尾は彼をどこで見たかを思い出した。
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