17.一輪の花

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「さあ、帰るか」 「うん。あ、ちょっと待って。 お花屋さん、まだ開いてるかな、寄っていい?」 駐車場に行きかけたところを、引き返して、 ホテル内にある、花屋を目指す。 閉店ギリギリ、片付けしていたところに飛び込み、 黄色いバラを一輪買った。 「良かった、買えて。お母さんのお花、忘れるところだった」 月命日に一輪。 お母さんが亡くなってからの、習慣だ。 「いつも思うけど、何で一輪なんだ? 普通は仏壇用の、束になったヤツだろ」 「お母さん、いつも言ってたの。一輪だけを、とことん 愛でてあげようって。だからこれでいいの」 「ふーん、なかなか粋な人だったんだな」 「そうね、お金の余裕も無かったし」 わたしを育てるのに苦労の連続で、やっと就職して 親孝行できると思ったのに。 あっけなく逝ってしまった。
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