第1章

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アパートの一室 バタン(ドアが開き、閉まる音) 男  「(上機嫌に)はあー、ただいまー」 女  「……お帰り」 男、座ってTVをつける。女、その斜め後ろから男を見下ろす。 女  「……今日も行ってきたの?アクアショップ」 男、TVから眼を離さず 男  「(嬉しそうに)うん。行ってきた。いやー、やっぱりイソギンチャクはいいなあ。あの浮遊感、柔和感、何とも言えない安らぎを感じるんだよね~」 女  「……そんなに気に入ったなら、買ってくれば」 男  「うーん……実際飼うとさ、生き物だし、育てるの大変だと思うんだよね。もし、死なせちゃったらイソギンチャクに申し訳ないし。通って眺める位が俺には、丁度いいんだよ」 女  「……(小声で)つまみ食いする程度が丁度いいと」 男  「え?」 女、携帯を突きだす。 女  「浩之のイソギンチャクって、これ?」 男と浮気相手の女が、ホテルから出てくる写真。 男  「!」 女  「同棲始めて一か月で浮気って、どういうことよ!」 男  「(ひどくうろたえて)え、と……あ、と……それは、俺、かな?」 女  「誰がどう見ても、あんたでしょ!」 男  「いや、それは、だな……」 女  「いい訳なんか聞きたくない!……うう!」 女、激しく泣き出す。 男、悩んだ挙句、覚悟を決めて土下座する。 男  「ごめん!しました浮気!でも、ホントに浮気だから!本命じゃないから。本当に好きなのは裕子!愛してるのは裕子!だから許して!」 男、女の泣き声が止んでいることに気づき、恐る恐る顔を上げる。 女  「(男の声、耳に入っていない)……酷い、私は浩之の為に変わったのに。こんな裏切りってない」 男  「……裕子?」 女  「好きだった浩之と付き合えるようになって、同棲もして、夢みたいに嬉しくて……」 男  「いや、俺だってそう……」 女  「夢のまま、幸せでいられると思ったのに。(どすの利いた声になって)ぶち壊しやがって」 男  「(怯えて)ゆ、裕子?」 女  「俺の夢を返せ!」
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