神話

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 ソルドは、戦争が終わってからここ半年、ガラシェを訪れていなかった。 随分久々だった。  ドルアーノの葬儀や戦没者の慰霊祭、諸々の戦争の後処理に、思ったより時間がかかった。 そして何より、ドルアーノの馬車がない。 あれはザナビルクからガラシェまで、四日で走る。 普通の馬では、一月近くかかってしまう。  ただ、戦争が終わったのは春。 夏の間はガラシェに来ても、何の意味もない。 リーファは現れない。 リーファは氷の精霊。 少なくとも秋深まる頃でなければ、会えない。 「ま、どうせあいつはいなくなる訳じゃねぇさ」 と、軽く考えている。  ソルドは、戦争中から違和感を感じていた。 神についてである。 確かにブサナベンは、まれに見る凶悪で強い魔導師である。 あの脅威は確実に排除すべきものであったし、それについて自分が間違っていたとは思わない。 魔界門についても、ブサナベンが「鍵」を手にいれ、こじ開ける様なことになれば、世界は確実に失われていただろう。 「鍵」を完成させる前にブサナベンを討てたのは、大きな成果と言って間違いない。  だが、神の反応は鈍かった。  時折夢枕に現れる神。 創造神トルキスタ。 ソルドは、ブサナベンとの戦いについて、その成果を神に報告し続けていた。 ブサナベン討伐までは、およそ好意的だった。 特に、魔封じとしての力を持つドルアーノの活躍については、評価が高かった。 「ドルアーノには、魔を封じ、正しき神の世の建設にさらなる尽力を期待する」 とは、神がいつも言っていた言葉である。  その一方で、ブサナベンを強襲する機会があったのに、 「今回はまだ、魔の本質を見極められていなくはないか。  更なる危機を招くやも知れぬ」 と言って、作戦を中止する場合が二度あった。  決定的だったのは、ドルアーノがブサナベンと刺し違え、魔界門の解放の芽を摘んだ後のことだ。 神はこう言った。 「あの二人は、もう少し必要だったが、今回はやむを得まい」  偉大な戦士ドルアーノ、戦いのカリスマを失ったのは、確かにソルドにとっても痛手である。 何より、友人である。  だが、 「なぜブサナベンも?」 ということだ。  ブサナベンは、世界にとって何の利益もない。 神も日々そう言っていた。
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