神話

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 もう一つの疑問は、リーファに対する微妙な反応である。 「今回は、リーファの全てを知る力が、大いに役立ちました」 という風に、リーファを評価すると、 「さすがに氷の精霊、さすがに精霊の王ハルバンの娘である。  だが、人は人の力で、魔に立ち向かうことで、更なる成長を得られるのではないか?」 と、たしなめられる場合があった。  ソルドは、そんな馬鹿な、と思っていた。 人間がブサナベンのような化け物と戦うには、彼女のような超越的な存在が必要だ。 神もそうだ。 だが神は、リーファについては、少し否定する部分がある。  ソルドは、神の真意を知るべく、リーファに会いに来たのだった。  ガラシェは、白夜のあるルビア程ではないが、厳寒の地である。 秋深まれば、雪は降る。 もうそこに冬は迫っている。  ある夜のことだ。 「さて、この辺りだったな」  ソルドは下級僧侶が使う粗末な冬用の灰色の法衣を引き寄せ、震える。 今の彼の地位なら、大司教用の法衣がふさわしいが、彼はその手の贅沢が虫酸が走るほど嫌いだった。  いつもリーファが現れる場所。 寂れた街道の、何の目印もない場所である。 夜深まり冷え込んでくると、彼女は不意に現れるのだ。  果たしていきなり、声を掛けられた。 「お久しぶり」  いつも気配がないので、いつも驚かされる。 「よう。  一通り終わったから、くそ寒い中わざわざ遊びに来てやったよ」  ソルドは笑って言う。  リーファは相変わらず、奇跡のように美しい。 出会ってからかれこれ二十年になるが、精霊というのは年を取らないらしい。 「で、だな。  実はお前に」 「待って!」  リーファが激しく制する。 こんな様子のリーファを見るのは、ソルドはあまり記憶がない。 たまに泣いたりはするが、鋭い口調は初めてだ。 「バザのルクフェル」  それだけ言って、彼女はソルドをじっと見つめる。 必死な眼差しだ。 ソルドが何か言おうとすると、首をわずかに振ってそれを止める。  ソルドは金色のさらさらした髪を少しぐしゃぐしゃ掻いて、ため息をついた。 「わかったよ」  遠路はるばる来てこれだけかよ、と、少し思わないでもないが、リーファは別に意地悪で言っているわけでもない。 ソルドは悪態もつかず、 「近くに泊めてくれそうな所はねぇか?」 と尋ねた。
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