神話

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 リーファは安心した顔で、 「あるわ。  この道をしばらく歩けば、人のいいご夫婦のお宅があるの」 と答えた。 ソルドは手をひらひら振って、リーファの示した方へ向かった。  翌日、ソルドは来た道を引き返し、ザナビルクへ戻る。 一通りの仕事を片付け、今度は西へ向かう。 また一月ばかり掛けて旅すると、ようやくバザに着く。 季節は真冬。 バザの冬は厳しくはないが、やはり冬であり、風は乾いて刺すように冷たい。  バザは、最近になって霊力の力場であることが判明し、教会でも聖堂の建築を検討している。 ソルドはもう、大聖堂などというその手の教会組織云々には嫌気が差していたが、ブサナベンとの戦いで、魔に対抗する意味や価値は、誰よりも痛感していた。 よってその力場にも興味があったが、今はとりあえず、 「バザのルクフェル」 の手がかりを優先することにした。  色々と広い市街をうろついて聞いて回るが、手掛かりらしいものは何もない。 飽きっぽいソルドにしては珍しく十日ほど調査を続けたが、寒さが堪えるばかりで、何も得られない。  そうこうしていると、風邪を引いた。 熱が出て、やむ無く一日だけ宿に引きこもることにした。  ソルドが寝込んだ日の夕方、彼の宿に来客があった。  客は、窓からやって来た。 部屋は二階だったが、客は明らかに空を飛んでやって来た。 いきなり木窓を外から開け、窓枠をふわりと越えて入ってくる。 真冬の冷気が部屋に吹き込む。 真っ赤なぼろ布をまとったガリガリに痩せた男で、眼球が青く光っている。 見るからにそれとわかる魔導師だった。 「おいおい、勘弁してくれ、俺は今風邪を引いてお休みだ」  気楽に言うが、内心危機を感じている。 そもそもこんな侵入の仕方であるし、なんと言ってもソルドは、ブサナベンという魔導師と戦った身である。 もしかするとブサナベンの弟子辺りが、彼の命を狙って襲ってきたのかもしれない。 「なんの用だい?」 と尋ねると、魔導師からは意外な返事が帰ってきた。 「それはこっちの台詞だ。  大方の見当はつくが」  陰気な声で、面倒くさそうに魔導師は言った。  その言葉でソルドはピンと来る。 「あんた、ルクフェルか?」 「ああ、そうだ。  世間では俺を、世捨て人ルクフェルだとか、そういう感じで侮辱する」
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