天才vs天才

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私が新撰組との生活を始めて1週間ほど経った頃だろうか。 掃除と料理の繰り返しという日々に退屈していた私は、道場の掃除という名目で稽古の見学を企んでいた。 むふふ…。 あわよくば隊長格の手合わせを見れればラッキー。 もはや掃除をする気など微塵もない。 「しっつれいしまぁーす(小声)」 私は静かに道場の扉を開けた。 「お!やってるやってる!」 中には中央の数人を囲むように、隊士達がこれから始まるであろう試合を座って見学している。 「……総司…?」 隊士達が見守る中央、つまりこれから試合を始めようと木刀を構えているのは総司だった。 そして総司を取り囲むように木刀を構える三人の隊士。 三対一!? この時代では剣道はまだ主流ではないのだろうか、隊士達は簡易的な胴当てを付けているだけだ。 「はぁぁっ!!」 やがて一人の隊士の叫びと共に試合が始まった。 「…速い…!」 隊士の一人が総司に向けて木刀を振るったが、それを軽く躱して胴に一撃。 続いてやって来た隊士の攻撃を木刀で弾き、また胴に一撃。 そして休む間もなく右足を大きく踏み込み、残り一人の隊士の胴目掛けて突きの一撃。 圧勝。 まさにその一言に尽きる試合だ。 これが幕末の時代で天才と言われた沖田総司の試合…。 私は無意識のうちに総司の元へと足を踏み出していた。
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