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だが、春香は別だった。
彼女はこの習わしを行うことに強く賛成した。
両親が止めようとしても彼女は意志を曲げなかった。
その熱意に押され、僕も同意せざるを得なかったのだ。
そして今、僕らはカイダン神社の石段の前に、手を繋いで立ってい
る。
周りには、誰もいない。
聞こえてくるのは、カラスの鳴き声ばかり。
絵の具をそのまま塗りつけたような夕焼け。
周囲の木々や向こうの鳥居を紅く染め、自ずとあの日の映像が頭をよ
ぎる。
「準備、ええ?」
春香の声で現実に引き戻され、僕は頷き、歩き始めた。
一段ずつ、ゆっくり、足を踏み外さぬよう慎重に登っていく。
「……嫌いやったけど、死ぬなんて思ってなかってん」
春香がそっとつぶやき始めた。
瑞々しく繊細な声。
「いっつも髪を引っ張られるのすごく嫌やったから、神様に連れて行
かれて怖い目に遭えばいい! って、すごく軽い気持ちやった……」
僕も、彼女の言葉に応える。
「正直言うと、あの時の春香少し怖かったんや。あんだけのことが起
きたのに、泣きもせずに大人達の質問にもはきはき答えたりしてた
もん」
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