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あんまりにも怖くて、泣くことすらでけへんかった。もしあの時本当
のことを言ったら、そのまま地獄の針の山に落とされたりするんやな
いかって、頭の中ではずうっと震えてたよ」
涼しい秋風が、彼女の黒髪を穏やかに揺らす。
「あれ以来、ずっとガンちゃんが怖かった。何時どんな時も、ガン
ちゃんの幽霊がこの神社のてっぺんから私を睨んでるんやないか、私
が来るのを待ってるんやないかって、そんなことありえへんって思っ
てても、頭から離れへんかってん」
せやから、確かめたかったと彼女は言った。
「……それで、この習わしをやりたかったんか」
「これ以上、引きずりたくなかったんや」
じっと頂上を見上げたまま春香が話す、僕も同じ方向を見る。
「おらへんよ、ガンちゃんは」
「うん……。でも頂上まで登って、しっかり確認する」
「無理せんでもええよ」
「私のしたことは許されることやない……。でも、この気持ちを抱え
たまま君と結婚しても、やっていかれへん」
「俺は大丈夫や。心細くなったら、一緒にいたるやんか」
「あかん! 最初はよくても、いつかこの怖さにあたしも君も押し潰
されてしまう」
だから、最後まで上がらなあかんねや。
強い意志のこもった言葉だった。
「そうか……」
「……ごめんな」
そう言ったきり、春香は何も話さなくなった。
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