紅い石段

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僕は彼女の生暖かい手をギュッと握りしめた。 間もなくして、彼女も僕の手を強く握り返してきた。 一段ずつ、石段を着実に踏み締める。 蟻にたかられた芋虫や丸く固そうな虫食いの木の実を踏まないよう、 気をつけながら。 決して暑くないのに、頬を汗が伝う。 ずっと前を見ているが、不思議と意識が朦朧として、視界がぼやけて くる。 隣から、春香の息づかいが聞こえてくる。 昔と比べると楽になったはずなのに、あの頃よりも五十段が長く、大 変なものに感じられる。 だが、もうすぐだ。 四十七、四十八、四十九。 そして……五十。 「やった! てっぺんや!」 その声にハッとして振り向くと、ガンちゃんがいた。 頭からドロドロの肉の塊を垂らして、僕らの両手を掴んでいた。 ヒッと声を出して、僕はその手を強く振り払った。 我に返ると、ガンちゃんはいなかった。 そして、春香の姿も見当たらなかった。 恐る恐る、下を見る。 石段の始まりで、春香がその長い黒髪を血肉に染め、大の字になっ て痙攣していた。                           (完)
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