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だから、こうしてUAの思索に耽っていれば、興味のない授業などどう足掻いても頭になど入ってこないのも然り。
「ハァ……、バカらしい、な」
アオイは、自身の懸念を振り払うように、走り書きした文字をタッチペンで上から黒く塗り潰した。
こうしてUAの襲撃を考えると、大抵はいつもこの一言に帰着する。それはアオイが自身の計算を信じていないこともあるが、襲われた場合に具体的にどういう経路で脱出艇に安全に行くか。どのシェルターに避難するのが最善か、という保身のことしか考えられなくなってしまうのだ。
そんか究極の自己保身しか考えられない自分を認識するのが嫌で、アオイはいつもそこに考えが及ぶ前に、物理的に考えることを放棄するのだ。
しかし、アオイが真っ先に自己保身を考えるのも、ある種仕方のないことなのかもしれない。
アオイの両親は、彼が物心つく前に交通事故で他界ーーアオイだけは奇跡的に命を取り留めたーーし、物心ついてからはというと、散々親戚縁者をたらい回しにされ、最終的には五歳の時に、児童養護施設の玄関前に置き去りにされた。
そのように、愛がどうの思いやりがどうのと誰にも教えてもらわず、家族の……、引いては人の温もりを知らずに育ったのだから、自分以外に守るべき何かがないというのも、それはそれで納得のいく話だ。
だが、アオイを自己保身に走らせる真の要因は、その施設で起きたある事件だった。
ーー夕暮れの施設、薄暗い物置の中、聞こえてくる自分の鼓動。
「……ッ!」
暗い記憶が繋がって呼び起こされそうになった瞬間、アオイは強く頭を振った。
……忘れろ。忘れろ。忘れろ。
溢れ出しそうになった記憶群が、再び暗い水底に沈んでいくのを確認しながら、アオイは深く息を吸った。
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