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「では、今日はここまでにしよう。今日の講義のレポートは来週までに提出するように」
講義をしていた教授が帰り支度をするのと同期して、他の学生たちが一斉に席を立った。
この講義は四限目。時刻は十六時十五分を示していた。
……きっと、今立った学生たちは、この後の放課後の予定が一杯なんだろうな。
アオイは、軽い足取りで講堂を出ていく学生たちを見ながら、荷物をまとめて立ち上がろうとした。
「アオイ! 何だよ、来ないと思ったらこんな所に座ってたのか。席取ってあるってメール見なかったのか?」
「えっ、ホント?」
アオイは、携帯端末を取り出してメールをチェックする。
「あ、ホントだ。ごめん、レイジ君。見てなかったよ」
手を合わせて謝罪するが、それは真っ赤な嘘だった。そもそも、何故レイジが席を取っていたかというと、それはアオイが三限の終わりにレイジに送ったメールが原因なのだ。
ーー三限で使ったミニモビの片付けを頼まれたから、遅れると思う。だから先に行ってて。
というメールを送ったが、まずはこれが第一の嘘だ。確かにミニモビを格納庫に仕舞いには言ったのだが、頼まれた、のではなくアオイ自らが志願してのことだった。
そうとは知らずに、律儀なレイジは、ご丁寧にもアオイの分の席を確保していたというわけである。
第二の嘘は、メールのチェックの件だ。レイジが席を確保したというメールなど、四限に行く前に確認済みであった。
つまり、先のメールチェックはあくまでアオイの演技なのである。
レイジとは、この“ノア工科専”の寮が同室でそれ以来ずっとーーと言ってもまだ一年と二ヶ月ほどーー行動している。
平凡なアオイに対して、レイジはスポーツ万能で勉学も優秀。おまけにコミュニケーション能力にも優れている。
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