しあわせの家

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「おばあちゃん、何処に行くの?」 この家の一番小さい孫娘が母親に訊ねる。 「今日から、おばあちゃんはしあわせの家っていうところで暮らすのよ。」 「しあわせの家?」 「おばあちゃんが行くところはね、たくさんのお友だちといっしょに親切な人に優しく世話してもらいながら生活できる所なのよ。」 玄関の前には、三人のしあわせの家の職員がにこやかにワゴン車の前に立っていた。 ここに住んでいる82歳になる真鍋タネ子は息子と嫁に抱えられ玄関の前に連れられている。 「おばあちゃん、こんにちは。行きましょうか。」 しあわせの家の職員が優しくタネ子の手をとる。 「よろしくお願いいたします。」 深々と頭を下げてタネ子が乗せられたワゴン車を見送る嫁。 「あーあ、これでやっと介護地獄から解放されるわ。」 嫁は肩を回しながら家の中に入って行った。 「しかし、この時勢に良く母さんを受け入れてくれる施設があったな…。」 そう言う旦那を睨みながら嫁は吐き出すように 「あなたは、働くだけでお義母さんの世話をしないから分かんないのよ。 もう、どこでも漏らすし、風呂に入らせると暴れるし…まだ寝たきりの方が楽だったわよ! あなたは、全部私に任せっきりで施設も探してくれないし! これ以上介護が続いていたら、私がつぶれていたわ!」 「すまない…。 お前にばかり負担かけて…。」 すまなさそうに男は呟いた。
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