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「戦後、大きく日本を立ち直らせたあの時代の労働力は、評価に値する。
タネ子さんの時代の開墾と精神力を今の日本は求めています。
汗を流し作物を作り、働きながら多くの子供を育て上げてきた、その力を貸して下さい。」
赤い頭巾の女の子は、無邪気にタネ子に笑いかける。
こんなかわいい子の口がこんな難しい社会事情を語ることに不思議に思いながら自分の半生を思い出していた。
タネ子は、7人兄弟の第2子の長女として生をうける。
美しく育ったタネ子は、年頃になって医者の次男坊と恋に落ちる。
農家の貧しい家庭に育ったタネ子は、身分の違いから別の男と無理矢理結婚させられる。
4人の子供を育て上げ、それぞれ子供も独立して家庭を持つ。
長男夫婦と同居して可愛い孫もできた。
孫の面倒を見ながら家計を助けるため定年までパートで働き、家では家庭菜園で野菜作りに精を出していた。
しかし、寄る歳には勝てなかった。
少しずつ足腰が弱ってきて、杖がないと支えられなくなる。
忘れることも多くなり、排泄も間に合わないことが増えてきた。
露骨にイヤな顔を見せる嫁にイライラして当たり散らすこともあった。
あんな嫁とはもう、二度と一緒に暮らしたくない。
その嫁より若く美しく生まれ変わった自分の姿をもう一度鏡で写してみる。
夢じゃない!
「もっと動ける!もっともっとしたいことが…。」
「タネ子さんが働いた分、報酬はありますし、土日はお休みになりますから、何をしても自由です。
住むところもちゃんと用意しますから。
タネ子さんは月曜から金曜まで働いて下されば後は自由です。」
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