しあわせの家

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案内してくれた所は、隣の県のキャベツ農家だった。 食事つき住み込みで働かせてもらえて、賃金は週一で現金で貰えた。 優しく楽しい農家で、もともと働き者のタネ子は大変気に入られた。 汗を流し再び働ける歓びと生きている実感が沸き、充実した日々が続いた。 また、休みの日にはショッピングや映画や芝居を見て楽しんだ。 どんなに遊んでも働いても疲れない若い体。 しあわせの家に連れてきてくれた嫁に心の隅で感謝さえした。 楽しく充実した日々は、日捲りを捲る度に減っていった。 いよいよしあわせの家に帰る日がやって来た。 お世話になった農家の家族も惜しみながら最後の夕食を共にした。 「今日まで良く働いてくれました。ありがとうございます。 タネ子さんの代わりに明日から三ヶ月働いてくれる人です。」 そう言って一人の青年が紹介された。 タネ子は、その青年を見て驚いた。 その青年が昔、愛し合い親同士の反対で別れさせられたまさにその人だったのだ。 青年も、すぐにタネ子だと気がつく。 「タネ子さん!」 「政夫さん!」 二人が知り合いだった事に驚きながらも、農家の家族は二人だけの時間を作ってくれた。 そして政夫という青年も、別の町のしあわせの家で若返えらせてくれた事実を知るのだった。 二人はあっという間にあの若かりし日々の思い出に浸った。 尽きぬ思い出を語り明かす。 懐かしくも切ない想いが甦る。 時間が経つのも忘れ…
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