ちょっと、そこまで、

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とは言っても単純に寝落ちした私があのボタンを押していただけなのだけれど、正直、驚いた。これがめちゃくちゃな羅列だったのならうっかりキーボードに手を置いてしまったかなで済んだかもしれない。なんだか、驚く基準がズレている気がするけれど、私は削除キーであを消していき、昨日、寝落ちして書きかけの小説を眺める。 出来栄えは、正直、わからない。作品というやつは自分で書くのではなく、誰かに読んでもらうまで面白いかどうかは未知数。自分では面白いと思っていても、読者からしたら『なにこれwwww 小説ー? ダッサーイ(笑)』なんてこともあるのだ。シュレディンガーの猫だ。蓋を開けてみるまで生きているか、死んでいるかわからないのだから、まぁ、それに生命を吹き込むのは作者たる私なのだけれど、いつまでたっても慣れない。もしも私が小説デビューしようものならストレスで胃に穴が開くかもしれない。恐ろしい話だ。小食な私の食事の量がもっと減ってしまうではないかなんてことをつらつらと考えて、ふとほとんど空白な予定の書き込まれていないカレンダーに一つのマークがあることに気がつく。 それはDVDの返却日のマークだ。それも今日。暑くてうっとうしいはずなのに二度も背筋がひんやりした。たかだかDVDの返却くらいと思うかもしれないが、返却日を大幅に遅延して多額の料金の請求を受けたことのある身としてはすぐにでも返したい。夏場の怪談話より、怖い話だ。 外に出て、日光のすごさにめまいがする。引きこもり(小説家もどき)の私はほとんどバイトの時と以外は外出はしない、DVDだってその日の帰り道に借りる。正直に言えば部屋に逆戻りしたくなるが、延滞料金のトラウマが戻ろうとする足を前に向かせる。 日光浴なんて言葉、もうすぐ死語になるんじゃないかと思いつつ自転車に跨がりかごにDVDを放り込み、帽子を目深にかぶりサドルをこいだ。 私が小説家志望だということは、ほとんどの人が知らないというか、私は部屋に引きこもっている無職の女ということになっているらしい、あながち間違いではないので放置していたらすっかり染み付いてしまい、近所の小学生からはニートと呼ばれる。公園に居座るオッサンは確かゴキブリと呼ばれていたから、最近の小学生のネーミングセンスは直線だ。直線過ぎて尖っている、それが勢いよく突き刺さる。ニートでなく、小説家と呼ばれたい
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