11人が本棚に入れています
本棚に追加
「時の流れというのは、残酷なものよ……」
老齢の男は遠くを見る目をした。
「もしや、その剣士というのは……?」
少年は察した。
「今のはただの話だ、昔むかしのな」
老齢の男は否定も肯定もしなかった。
少年は立ち上がった。目に輝きが戻っていた。疲れ顔に、気力がみなぎっているようだった。
「もう行くのかね?」
と問うと、
「はい、行きます。行かなければなりません」
少年はまっすぐに見つめ返した。
「そうか……。大事な目的があるのだったな」
少年はうなずいた。
「はい。とても大事な目的です。あまりに大きくて途方もなくて怖じ気づいていましたが、心が決まりました。あなたのおかげです」
「いいや、そうではないよ。こたえは最初から出ていた」
少年の目を見つめた。
「あの山に、大切な人が?」
「はい。とても大切な人がいます。その人を救けるために、ぼくは旅を続けてきました」
老齢の男は微笑んだ。
「ならば行くがよかろう。ここで止めるのは無粋というものだな。大きな困難があるとわかっていても、それに立ち向かっていく意志があれば、きっと目的を達成できるだろうて」
「はい。のんびりしてはいられません。失礼します」
そう言って少年は背中を向けて歩き出す。
最初のコメントを投稿しよう!