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時はすぎ、少年はいつしか青年となっていた。鎧のような分厚い筋肉に口ひげをたくわえ、どこから見ても立派な剣士として復活をとげていた。が、町での生活がすっかり長くなってしまっていた。
青年は旅立てないでいた。少女が今でも生きているのかどうかもわからない。達せられるかどうかも不確実な目的に、いつまでもすがっていていいのだろうか。少女以外の女も知った。なぜそこまでこだわる必要があるのか、と――。
幼い頃の記憶や思いは次第にぼやけていっていた。
魔物の居場所も要として知れず、ただ、月日だけが無情に過ぎていった。
評判の剣士とうたわれるようになった青年だったが、ただ、食い扶持のためだけの戦いに明け暮れるようになっていた。
やがて青年は壮年となっていた。体力頼みのただがむしゃらに突き進む武者ではなく、正確な剣術が冴え渡る技巧派の剣士に成長していた。
そんなあるとき、魔物の噂を耳にした。
彼は迷った。
懇意だった酒場の女主人に打ち明けた。普段よく行く酒場の女主人は気っ風が良く、町の男たちに慕われていた。
戦争で夫を亡くして未亡人だった彼女は、青年に向かって言った。
いままで一度も妻をめとらずにいたのは、まだその娘への想いがあるからじゃないのかい? 人生は一度きりなのよ。毎日代わり映えのない、同じことの繰り返しのままでいいの? 飲んだくれているだけで志のない男なんて、わたしはイヤだよ。
男の魅力は、志によってなにを成すかで決まるんだ。
彼は目が覚めた。
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