第七章 ダイニノヒゲキ

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「な~んで皆先寝ちゃうかな~……」 ペットボトルのジュースを片手に、【鈴木 えみり】が一人愚痴る。 ここは1号館。 位置的に、最も町側に近い建物。 その1号館の周りをウロウロと歩きながら、えみりが不機嫌そうな表情で言う。 「ここ、ハズレじゃん」 えみりは、自分達の宿泊先となった1号館が不満だった。 理由は、まず別荘という割に建物が地味。 昼間見た、まるでお洒落なペンションの様に見える3号館や、話によると丸太のログハウスみたいになっているらしい5号館に比べると、何だかここ1号館は、単なる普通の一軒家にしか見えない。 それが不満。 次に、景観。 折角海辺に遊びに来ているというのに、ここ1号館は海から離れ、代わりに周りを木に囲まれて、海なんか全然見えない。 えみりは、海辺の別荘というからにはもっと凄いものを想像していたのだ。 「なんだよ~……もっと派手なのとかお洒落なのとか、いっぱいあっただろ~? せめて似た様な地味なやつだとしても、海が見えるとこに建ってるのとかあるんだし、杉並もそっち借りろよ~……」 そうブツブツと文句を言いながら、またペットボトルのジュースを口に運ぶえみり。 「……プハァッ」 飲み終えたボトルに蓋をして、建物の壁に寄りかかる。 「あ~……」 風がふいた。 旅行の疲労と興奮で火照った体には、冷たい夜風が心地よい。 「……ふふっ」 思い出し笑い。 「楽しかった」 えみりの泊まっている1号館。 建物自体はえみり的にイマイチだが、宿泊メンバーは悪くなかった。 何故なら、1号館の宿泊メンバーは全員、えみりと仲が良いクラスメイトのみで構成されていたからだ。 その為、バーベキューが終わりこの1号館に戻ってきてから、ずっと騒ぎ通し。 気の合う仲間達と好き放題騒げる夜。 最高の時間だった。
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