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たまたま最初に見付けた人間に興味を持ったのは、それが師によく似た女だったからだ。
黒く艶やかな髪、優しげな眼差し。
懐かしい想いが蘇ってくる。
あの女性の隣で守られている間、私の心は確かに凪いで、そして恐らく幸せであった。
産まれたばかりの私が独りで生きていけるようになるまでのほんの数刻を、彼女は守り、慈しんでくれた。
そしてすぐに死んでいった、私を置き去りにして。
恐らくそれは愛ではなく、母性というものだったのだろう。
だが私は多分、彼女を愛していた。
背丈が並び追い抜いた頃から、親代わりであり師である美しい女を、私はそういう目で見ていた。
何時しかそれが汚らわしい感情に思えてきて、ついにその想いを告げることなく彼女を看取った時のことが昨日のことのように思い出される。
人間の女はそこそこに高貴な様相であった。
屋敷もそれなりである。
私はその一角に身を潜めた。
少しばかり昔を懐かしんで、あの女に師を重ねて眺めてみるのも良いだろう。
どうせ誰に咎められることもない、私は独りで産まれ、独りで生き、そして独りで死ぬ運命なのだから。
途方もなく長い気が遠くなるような一生の内から見れば、ほんの一瞬の戯れ事だ。
軽い気持ちで始めた、それは最初、単なる気まぐれの戯れに過ぎなかった。
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