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見れば見るほどに、女は師その人であった。
次第に見分けがつかなくなってゆく。
私は気でも触れたのかも知れない。
判断し得る唯一の違いは、彼女の額には師や私の様な禍々しい突起物がないところだけであった。
幾日目かの宵、ふらふらと通りがかった貧しい身なりの女が、屋敷の前に赤子を置き去りにした。
子捨ては見慣れた光景であったから、私はそれを見ても、ふんと鼻を鳴らしただけである。
ところが翌朝、屋敷から出た女がその赤子に気が付き愛おしげに抱き上げた時に、私は確信した。
あれは、私が愛した女だ。
彼女は誰が産んで捨てていったかも分からない赤子を屋敷の中に連れ帰り、綺麗に洗って布に包んだ。
まるで自分の子を慈しむかのように幸せそうな柔らかな微笑みを湛え、赤子の頬をつ、と撫でた。
それから何かを探るように赤子の額に手をやった。
未発達の薄い髪をかき分けるように。
切なげに眉を寄せて落胆した様子の彼女は、それでも赤子を胸に抱き上げて愛おしそうに頬ずりをする。
赤子の額に突起はなかった。
彼女はそれを探した。
そして遠い昔に私に対してしたように、今は人間の赤子を抱いている。
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