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◇
巨大な粘土人形(クレイ・ゴーレム)が一歩踏み出すたび、ずん、と地面がゆれる。
私は弟の手を引いて追撃を必死に掻い潜る。
突如として島に現れたゴーレムは、尖島武国の魔術師が島民を捕らえるために放ったものだった。
尖島武国は多島海北域を統べる大国で、島々に魔術師団を派兵して奴隷狩りを行なっている。
でも、まさかこんな島にまで来るだなんて……。
両親も祖母も魔術師に捕まった。
それでも身を挺して私と弟だけ逃がしてくれた。
砂浜近くの林で、ゴーレムの足音が遠のいた。
私達を見失ったらしい。
「助けを呼ぼうよ」
息を整えながら弟は言った。
「ルーオ海賊団なら悪い魔術師をやっつけてくれるよ」
ルーオは大小の海賊団を従える、近海最強の大海賊。
武勇は名高く、かつてあの海賊王に挑んで敗れた際、その勇猛さを称えられ傘下に加えられたほどだという。
「海賊を呼ぶなんて無理だよ。殺されちゃう」
弟は海賊に夢を見過ぎだ。
「とにかく海に出ようよ」
そう言って弟は浜へ駆け出す。
「海ならゴーレムも追ってこないよ」
けど、あの陰険な魔術師は『島から逃げたら召喚獣の餌にするからね』と脅した。
「島を出なきゃ助けを呼べないよ」
「そうだけど……」
「行こうよ、僕ら小木舟(カノット)なら大人にも負けないでしょ?」
浜の小舟に乗り込んだ弟は舫い綱を解く。
そのとき、いきなり波が裂けた。
「!」
恐ろしく大きな触手が一瞬で弟に巻きつく。
とっさに伸ばした手は空を切った。
「お姉ちゃ……」
弟の顔が恐怖に歪む。
それが一瞬で遠ざかる。
小さな体はあっという間に海中へ引きずりこまれた。
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