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「腹が減ったな」
唐突に男は言った。
「……これならあるけど」
私は腰袋の小瓶からロティスの酒漬けを取り出す。
彼は遠慮せずに受け取ってかじった。
「うまいな」
感心したふうに呟いて、さらに頬張る。
「うむ、うまい」
「そんなに?」
「ああ、好きな味だ」
夢中になって食べる仕草は弟に似ている。
「あなた、ルーオ海賊団の人?」
「その一派ではある」
傘下の海賊団のどれかに属しているのだろう。
「じゃあルーオにツテがあるの?」
「ないことはないな」
それなら橋渡し役を頼めるかもしれない。
もちろん海賊は恐ろしい。
彼らの要求する見返りを想像するだけで足が竦む。
でも、他に道はない。
唇を噛み締める。
私は意を決して事情を話した。
◇
「ほぉ。海賊に助けを請う、か」
ロティスを食べながら一通り聞き終えた男は言った。
「しかし、ルーオでなければいかんのか?」
だって他の海賊団じゃゴーレムにやられちゃう、と言いかけたけど、そこに所属する本人を目の前にしては言いづらい。
「えっと、相手は魔術師で……」
「その魔術師とやらだが」
男は口の中のロティスをごくんと嚥下した。
「自分達で戦って追い返せばよかろう。
魚も獣も自分の縄張りは自分で守るものだ」
「魔術師なんかと戦えるわけないじゃない。
私達はただの漁民なのに」
「ならば諦めて支配を受け入れろ。
強者の庇護をせいぜい期待するがいい」
突き放した物言い。
思いやりのかけらもない。
他人事だと思って……。
敵の魔術師に私の家族は……弟は…………。
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