少年は果てなき海で

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「海はどこで途切れるのか、それを知ろうと七つの海を渡るうちに、そのバカ王子はこう呼ばれるようになった」  彼の背後の海で激しい水柱が立った。 「海賊王、と」  水飛沫とともに大海蟲が磯に打ち上げられる。  大海蟲は真っ白に凍りついていた。  こんな南の島だというのに。 「氷魔法……!?」  魔術師は目を剥いた。  水柱が割れ、現れたのは蒼き竜。  青みがかった半透明の美しい鱗。  魔力を帯びた虹色の鰭。 「ペットのアクアドラゴンだ」  海賊王は竜の首を撫でた。 「お姉ちゃん!」  聞き覚えのある声。  竜の背に張られた透明な膜の内側に、小さな人影が見えた。 「僕だよ、お姉ちゃん!」  弟が……生きてた……!  目頭が熱くなる。  視界が霞む。 「やれ」  海賊王の命に従い、竜は青いブレスを吐いた。  水の魔力は三つの泡となり、ゴーレム、魔術師、祖母をそれぞれ押し包み、ふわりと宙に浮かべた。 「ひぃいい!」  泡の中で魔術師がもがく。 「お、お助けぇええ!  かかかか海賊王様だとは露知らず……!」 「武王に伝えておけ。  この島は海賊王が奪った。  民が欲しければまずこの首を獲りに来い、と」 「は、はいぃいっ!」  魔術師はカクカクと頷いた。    ◇  ゴーレムを土に還し、魔術師を小木舟に乗せて海へ放り出した後、島民は海賊王の前に集まった。  幸いみんな無事だった。   「あ、あの、海賊王様……」  島の長である私の父はおずおずと申し出た。 「我々はあなたに何を差し出せば……?」  一同の不安げな視線が王に集まる。  それを受け止め、彼はにやりと笑った。 「ロティスをもう一瓶食わせろ」
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