14人が本棚に入れています
本棚に追加
おもいやりってなんだ?
向き合うほどに迷路を彷徨う時間。
「祈優、犬のリクだろ。猫のサンタだろ。鳩のココロだろ。
んで今日はウサギって、何やってんだよ」
「何やってるって、何もしてないよ。
家族になるだけだよ。
ウサギさんはね、コクトにするの。
真っ黒なウサギだからコクトでいいよね、君の名前。
今日から、コクトは私の家族だよ」
帰り道、祈優はそう言いながら、
俺をぎゅっと抱きしめて顔をすり寄せた。
「ったく、何時までたっても向き合えないなら、コクトだかなんだか知んないけど、
アイツを俺は川からお前の手に届かないところに流す。いい加減にしろよ」
そんなことを言う陸仁。
いきなり雲行きが怪しい方向に向かっていくのに、俺の中に流れ込んでくる陸仁の心は
悲痛なまでに涙を流し、全てが震えているように思えた。
「陸仁なんて信じられない。
そんな残酷な言葉、よくも言えるね。
見損なったよ」
吐き捨てるように告げた祈優は、俺を抱きしめて逃げ出すようにその場所から走り出した。
逃げながらも、祈優の意識は背後に向けられ、流れてくる想いは、
陸仁を待ってる。
離れていても流れ込む陸仁の想いは、ヤマアラシのジレンマのそれに似て。
辛いだけだろ。
想いを遣る。
ただ言葉で説明するにはあまりにも簡単すぎる行動の裏側に隠された未知の感情。
俺は……この二人の糸を解けるのだろうか?
祈優の心が陸仁が懸念するように寂しさを埋めるための行動であるなら、
その歪みをた正したい。
優しい少女が心から笑える世界を取り戻して欲しいから、
俺が今コクトとして出来ることを探してみたい。
二人との関わる時間が、
短時間で俺自身を変化させてくれるものだと思いもしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!