【予選作品・本編】 優しさの意味

9/11
前へ
/16ページ
次へ
4.優しさの意味 「ただいまー」 玄関のドアを開くと一斉に近づいてくる祈優の家族。 尻尾を振りながら、その体で精一杯の喜びを伝える犬のリク。 少し離れたところに、チョコンと座って見守るサンタ。 「リク、サンタ、ただいま。  ココロは?」 そう言いながら彼女は、ベランダの方へと足を進ませていく。 彼女が姿を見せると、一羽の鳩はベランダへとゆっくりと止まった。 「ただいま、ココロ。  皆、新しい家族連れて帰ってきたよ。  コクトだよ。  仲良くしてあげてね」 そうやって告げると、祈優は俺を床へとおろした。 少しでも今の俺の現状を把握しようとピョンピョン動くと、 新入りが珍しいのかリクが俺の後をチョロチョロついてまわって、 サンタはつかず離れずの距離で、俺をロックオン。 新入りの洗礼ってか? 家の中を探検して思ったのは、 4LDKくらいのマンションに祈優は一人。 うっすら埃を被った額の中には今の祈優を縛り続ける 幸せな家族風景。 そんな彼女の寂しさが伝わるからリクもサンタも心配そうに見つめながら 彼女を思い、精一杯の愛情を届けようとしてる。 その夜、俺はベッドサイドに用意された籠の中で眠った。 彼女のベッドの枕元には、リクが寝そべって足元にはサンタのアンモナイト。 布団の中で小さく体を丸めて、孤独に震える少女を必死に守ろうとしてる騎士に思えた。 寝静まった頃、俺はベッドから抜け出して 鏡のある場所へとピョンピョン移動して主を思い描く。 * 何ようか、黒兔? 楽しいことになっておるようじゃの? * 楽しそうな主の声が流れ込む。 「我が君、この地に降り立ちて一日。  人の持つ優しさの意味と思いやりの行方が気になるようになりました。  今ひとたび真実の姿を」 想いを伝えた途端、優しい光が降り注ぎ俺の姿は見慣れたものへと変化を遂げる。 変身する間際の光に呼応するように、眠っていたはずの存在が姿を見せる。 「アナタ……コクトだね」 真っ直ぐな眼差しと共に告げられたその名前。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加