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「我が君、あの犬は大智を救うために自らの命を差し出そうとするのでしょう?
常識に考えて、あの犬の命を奪っても大智の命が救えるとは思えません。
出来ぬことを、なぜ人は平気に押し付けるように願うのでしょう?」
あの犬だけじゃない。
この人の世界は、擦れ違いの繰り返し。
「黒兔、人の世に降り立ちて見極めよ。
時として、人を惑わすそのものの正体は【おもいやり】と言う」
「おもいやり?」
「あぁ、想いを遣るのだ。
私が黒兔を思い続けるように。
人の世の輝きと煌めき、貪欲なまでの想いの心。
そなたは、いかにして人の心に寄り添う?」
人の心に寄り添うということがわからない。
流れ込む想いは『ありがとう』と『ごめんね』と『さよなら』が渦巻くように交錯した世界。
我が君はそう言うと、そのまま俺に手を翳す。
小さく姿を変えていく俺の体。
俺は、我が君に抱かれたまま水面の上へと連れられて、
その場所から天に吸い込まれるように異空間へと引き寄せられた。
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