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2.出逢った存在
降り立った場所は神社の境内。
片翼で空を駆けようとも翼はなく、
俺の視線もいつもと映し出す景色が違う。
地面ってこんなにも近い存在だったか?
一歩を踏み出すと体は跳ねるようにして前進する。
何もかもが、いつもと違う気がする。
俺は自らの姿を映し出せる場所を探しながらその周囲を跳ね続けた。
ようやく辿り着いた水面に映し出した俺の姿は、書物で見たウサギと言う生物。
慌てふためく俺に主の声が流れ込んでくる。
*
黒兔、何を嘆く?
人の世を知るには、うってつけぞ?
せめてもの、我の好意ぞ
*
我の好意ぞって、楽しそうに言わなくても……。
俺はこの姿のせいで気分はどん底だよ。
ウサギの姿は話せない。
本来の姿では人は視えない。
だけど……視えなくても、自由に見てまわることは出来る。
俺の身に関わる不安要素もない。
なのに……なんだって、こんなことをしたんだよ。
でもあの人はなんて言った?
確か……そうだ……『想いを遣る……』
これもあの人なりに、俺への思いやりってことかよ。
腑に落ちないまま、この状況下に落ちてしまった俺は
罰ゲームにも似た迷惑な時間をこの場所で彷徨う。
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