0人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
はじめて地上という場に出れば、なんともつまらない、灰色の世界だった。
見渡す限り、瓦礫と埃。
自ら動くものなどない。
地下とそれほど変わりなく、ただ埃を含む生温い風が、外気を感知できる頬に当たって不快だった。
NOZOMIの聴覚は、だがそれをはじめて聞いた。
「これは?」
放っておけば、それは、それを抱いたまま動かない人間と同じく、生命反応が弱まり、いずれこの耳障りな鳴き声と共に消えるだろう。
NOZOMIは、そう計算した。
しかし、脳回路が弾き出した時間よりも、それは長く、激しかった。
「うるさい……」
NOZOMIは、生まれてはじめて苛立ち、呟いた。
「うるさい」
暫く見詰め、そう忠告をしたが、それは一向に鳴き止む気配がない。
寧ろ、NOZOMIを見て、さらに激しさを増した。
「おまえはこの国の人間だろう? なぜわたしの言葉が理解できない?」
それとも、自身の脳回路のどこかに異常があるのか。
膝を折り、NOZOMIはそれに手を伸ばした。
「……あたたかい」
柔らかな頬に触れた指先から、脳回路へと信号が送られた。
【生後八カ月 性別:女 生命エネルギー:48.7%】
NOZOMIは生まれてはじめて驚いた。
「これが、赤ん坊……それにしても、小さな身体で、五十パーセント以下のエネルギーでなぜこんなにも?」
火が点いたように、そんなことわざが埋め込まれた知識から浮かんだ。
赤ん坊は、泣いているのだ。
なぜ――?
NOZOMIは、抱き上げた。
そうしなければならない、と全身に信号が巡ったのだ。
自分が、【女性】として動くようにセッティングされているからか。
「……お腹が空いているんだ」
生命反応が弱くなるのは、維持するエネルギーがないからだ。
そして、尽きれば動かなくなる。
自分と同じであり、しかし半永久的に動く自分とは決定的に違う。
NOZOMIは、思った。
地下へ行かなければ――赤ん坊を連れて。
最初のコメントを投稿しよう!