のぞみのうで

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 はじめて地上という場に出れば、なんともつまらない、灰色の世界だった。  見渡す限り、瓦礫と埃。  自ら動くものなどない。  地下とそれほど変わりなく、ただ埃を含む生温い風が、外気を感知できる頬に当たって不快だった。  NOZOMIの聴覚は、だがそれをはじめて聞いた。 「これは?」  放っておけば、それは、それを抱いたまま動かない人間と同じく、生命反応が弱まり、いずれこの耳障りな鳴き声と共に消えるだろう。  NOZOMIは、そう計算した。  しかし、脳回路が弾き出した時間よりも、それは長く、激しかった。 「うるさい……」  NOZOMIは、生まれてはじめて苛立ち、呟いた。 「うるさい」  暫く見詰め、そう忠告をしたが、それは一向に鳴き止む気配がない。  寧ろ、NOZOMIを見て、さらに激しさを増した。 「おまえはこの国の人間だろう? なぜわたしの言葉が理解できない?」  それとも、自身の脳回路のどこかに異常があるのか。  膝を折り、NOZOMIはそれに手を伸ばした。 「……あたたかい」  柔らかな頬に触れた指先から、脳回路へと信号が送られた。 【生後八カ月 性別:女 生命エネルギー:48.7%】  NOZOMIは生まれてはじめて驚いた。 「これが、赤ん坊……それにしても、小さな身体で、五十パーセント以下のエネルギーでなぜこんなにも?」  火が点いたように、そんなことわざが埋め込まれた知識から浮かんだ。  赤ん坊は、泣いているのだ。  なぜ――?  NOZOMIは、抱き上げた。  そうしなければならない、と全身に信号が巡ったのだ。  自分が、【女性】として動くようにセッティングされているからか。 「……お腹が空いているんだ」  生命反応が弱くなるのは、維持するエネルギーがないからだ。  そして、尽きれば動かなくなる。  自分と同じであり、しかし半永久的に動く自分とは決定的に違う。  NOZOMIは、思った。  地下へ行かなければ――赤ん坊を連れて。
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