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地下に戻れば、少しだけホッとした。
ここには今、NOZOMIともうひとりいるだけだ。
彼女達が生活する場は、かつて地下鉄と呼ばれていた公共交通機関のさらに下。
NOZOMIが生まれた場所は、もっと下だ。
地上の振動など全く感じない。
そこに、どこまでも続きそうな長い薄暗い廊下が一本あり、部屋が向い合せになっている。
どこがどう使われていたのか、今は分からない。
もう使う人間がいなくなってしまったのだと聞いた。
唯一NOZOMI達が使っているところは、長い廊下の中間部分だった。
そこに辿り着けば、NOZOMIを創った、今はこの地下でただひとりの人間である博士が、赤ん坊を抱く彼女を見て、心底驚いた。
「どこでその子を?」
「地上」
「まさか……」
NOZOMIの言葉に、博士はまた驚愕する。
ここの地上に住んでいた人々は、ほぼ他の地へ移住してしたはずだ、と博士は言った。
「逃げ遅れたのか……」
その間にも、赤ん坊が泣き止むことはなかった。
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