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「哺乳瓶、哺乳瓶……あったはずだぁ」と、NOZOMIに背を向け、呑気に独り言を呟く尻を蹴飛ばしたくなる。
「博士、早く! もたもたしないで!」
「そっ、そんなこと言ったって、どこにあるのか……」
「いいから! 早く!」
「分かったって! そんなに大声出さないでくれよ。僕だって寝てないんだから」
徐々に弱まっていく泣き声に、NOZOMIは焦りを覚えた。
博士をはじめて怒鳴った。
いつどこで使うのか分からない物だらけに溢れた備品室から出て、哺乳瓶を見付けた博士とキッチンへ行き、簡易ポットで湯を沸かして、ミルクを作る。
「よくミルクの粉を溶かして、こうして人肌にまでして……」
「だから早く!」
「まっ、待って。熱いと赤ちゃんが火傷しちゃう」
博士が、「ほら、このくらいの温度だ」とNOZOMIの掌に、ミルクの入った哺乳瓶を握らせた。
【温度:39.8℃ 記録成功】
NOZOMIの頭の中で、無機質な自分の声が響く。
それが今、どうしてだか嫌だった。
「憶えた」
自分の口で言ってみた。
そんな彼女に、博士が苦笑した。
「飲ませてあげて」とそのまま手渡され、NOZOMIは生まれてはじめて困惑した。
「ど、どうすれば……」
「そこに座って。口元に、こうして持っていってあげれば」
抱くことすら覚束ないNOZOMIを大きな手が支えた。
傍にあった椅子に腰をかけ、哺乳瓶の吸い口を赤ん坊の口元へと寄せる。
――と。
「あ、飲んだ」
ぐったりとし始めていた赤ん坊が、それでもミルクを勢い良く飲む姿に、NOZOMIは驚いた。
哺乳瓶を持つ彼女の手に、とても小さい手が重なる。
だが、それは温かく、とても強かった。
はじめての感情が湧いた。
「君に任せるよ」
「え?」
「その子を育ててくれ、NOZOMI」
「それは、命令?」
はじめて不安そうに見詰めるNOZOMIに、博士は首を横に振った。
「違うよ。僕からの頼み事だ」
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