第一章 晩春の嵐

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ブログは今年の1月6日で更新が止まっている。 ここに書いてあることが本当なら、行方不明になったという「標的」とされた人はどうなってしまったのだろう。 「……病室で拾ったあの人形、ガムテープがひっついてたじゃん。あれって、たぶんベッドの裏側にテープでフォーチューンドールを固定していたってことだよね」 お父さんのベッドの下にあった、青色のフォーチューンドールを思い出す。 確かにお見舞いに来た人が落としたものなら、ガムテープがあんな風にくっつくハズがない。単なる落し物じゃなく、お父さんがベッドから移動したはずみで、裏側にくっついていた人形が取れたと考えるほうが自然だ。 フォーチューンドールが人を呪う人形だというなら、まさかお父さんも誰かから「標的」にされていた――――? 「お父さんが、誰かに呪われてるってこと……?」 目の前が暗くなる。 震える声を絞りだすように呟くと、涼が呆れたような顔で私を見た。 「そこまで結論を出しちゃうのは早いってば」 「え?」 てっきり弟も私と同じことを考えていると思っていたのに、冷静な声に肩すかしを食らったような気分になる。 「だって、このブログ……」 「そのブログが本当かどうか、僕らには分かんないじゃん。今の時点でハッキリしてることは、まだ3つだけだよ。お父さんの病室のベッドの下にフォーチューンドールが落ちていたこと、それを静永さんって人が取り返そうとしたこと、姉ちゃんが鳴渡浜で化け物を見たこと」 どこか釈然としないけれど、言われてみれば確かにそうだった。 この毒々しいブログに書かれた内容が本当かどうか、私たちには分からない。 「事実かどうか判断できないことを、勝手に事実決だって思い込んだら余計に混乱するでしょ。確かにこのブログを読むと、お父さんが体調を崩したことがフォーチューンドールの呪いみたいな気がするけどさ。でも、冷静に考えてさ、ベッドに人形を貼り付けたくらいで人が死ぬと思う?」
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