第一章 晩春の嵐

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「それは……そうかも…………しれないけど」 もっともらしいことが書かれているけど、そもそもブログも掲示板の書き込みも、どこの誰が書いたかものなのか分からない。 学校裏サイトと同じように匿名の、というかそれ以上に顔の見えない相手が書いたこと。 それを鵜呑(うの)みにする必要なんてないし、根拠もない状態で無条件で信じる方がおかしい。 「でもさ、人間って100%のウソはつけないっていうじゃん」 「へ?そうなの?」 「というか、自分の経験や記憶とか、脳みそにストックがなきゃ、ウソも作り話も出来ないんだって。一あることを十に膨らませることは出来ても、全くのゼロから作ることなんてできないじゃん。だから、ここに書いてあることが100%ウソっていう証拠もないんだよ。だから丸ごと信じる必要はないけど、気になる情報は頭の片隅に置いておく程度でいいと思う」 まるで私の頭の中を見透かしたように、涼が付け足す。 「涼って、頭良いんだねえ……」 「まだ話は終わってないんだけど。さっきの葵さんと柊さんって人たちは、何か知ってる雰囲気だったんでしょ?」 パソコンに向き直ると、一番端っこのタブをクリックして画面を切り替える。 青月植物園の公式サイトから、「アクセス」のバーを開く。そこには簡単な地図と、植物園に最寄りのバスや電車の案内が書かれていた。 「そっか!」 「明日は休館日だから、明後日になるけど。病院からあまり遠くないみたいだし。お礼を言いに行くってことで、お父さんのお見舞いの帰りに寄ってみようよ」 自分の弟の手際のよさや計画性には、毎度のことながら驚かされる。 「すごいよ、涼!やっぱ、アンタ天才だよっ!!」 「これくらい、少し落ち着いて考えれば誰だって分かるでしょ」 少し興奮した私を、なだめるように言う。 …………こういう小憎らしいところさえなければ、賢くて頼りになる自慢の弟なんだけど。 そんな私の心中を知ってか知らずか、「とにかく」と話を切り上げる。 「話を聞かなきゃ、分かんないことが多すぎる。柊さんはともかく、葵さんの方は話が通じそうだしね」
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