第一章 晩春の嵐

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インターネットの画面を閉じ、シャットダウンする。 ノートパソコンの隣に置かれたルーズリーフには、植物園の最寄り駅とバス停、どこかのサイトのURLがメモされていた。 あまり遅くまで話していると一階に声が響いてしまうので、仕方なく今日は寝ることにした。 パジャマに着替え、二段ベッドの上の段に梯子(はしご)を使って昇る。 「おやすみ」 下で毛布にくるまっている弟に声をかける。本当はもう少し色んなことを話したかったけれど、もうすぐ日付が変わる時間だ。 明日にしようと気持ちを切り替え、薄手の毛布に潜り込む。 「うん。おやすみ」 そうは思ったものの、なかなか眠くならない。 疲労で体は重いのに、妙に目が覚めてしまっていた。 寝返りをうつたび、ベッドが軋んで小さく音を立てる。 「姉ちゃん」 不意に、下から小声で涼が私に呼びかけた。 「どうしたの?」 「もしさ、お父さんが誰かに呪われたせいで病気になったんだとしたら、どうする? あのブログみたいに」 てっきり涼は「呪い」なんて信じてないものだと思っていたから、予想外の質問に少し驚く。 「どうするって……急に言われても、すぐに思いつかないよ。アンタはどうするの?」 尋ね返すと、涼は「そうだね」と呟いた。 「……もしお父さんが死んだら、必ず犯人を突き止めて、何年かかってもそいつを同じ目に遭わせるつもり」 いつもの口調でさらりと言われたため、一瞬、弟が何を言ったか理解できなかった。 「涼?」 「じゃ、今度こそおやすみなさい。疲れてるだろうし、姉ちゃんも早く寝た方がいいよ」 カタカタと、少し強い風が窓を小刻みに揺らす音が、静まり返った部屋に響く。 涼や葵さんの言葉や、掲示板やブログに書かれていたことが、ぐるぐると頭の中で渦を巻く。どれだけ考えてもまとまらず、次から次へと不安ばかりが沸いてくる。 「……………………」 不吉な想像を振り払うように目を固く閉じると、鳴渡浜で見た化け物が瞼に浮かんだ。 眠ろうとすればするほど、じりじりと目が冴えてくる。 結局、私が眠れたのは明け方近く、空が白み始めた頃だった。
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