間章 不可解な死

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まだ午前中で日も高く、部屋の中はブラインドを半分閉めていても照明がいらないくらい明るい。 心なしか、夫の顔色も前より良くなっている気がした。 「本当に良かった。それに、この部屋は前のより日当たりが良いから、明るくていいわねえ」 おっとりと義母が呟く。 確かに、ICUに入る前の病室は日当たりが悪く、一日中薄暗かった。そのせいか、どこか陰鬱な雰囲気が漂っている感じが否めなかった。 術後の経過が悪く、私が神経質になっていたところもあるかもしれない。 部屋が変わって、どこか安心している自分がいた。 「そうですね」 相槌を打つ。壁際に立っていた義父が、ベッドの周りのカーテンをシャッと開いた。 「七菜子さん。涼と売店に行くんだが、何か飲まんかね?」 「お義父さん、そんな私が行きます」 とっさに腰を浮かせた私を手で制止する。 「なに、ちょうど週刊誌も見たかったからね。遠慮しなさんな。コーヒーでも、お茶でも、何にするかね」 「すみません。じゃあ、お茶を……」 「俺、コーヒー。ブラックで」 ちゃっかり自分の分を要求した夫に、涼と義父はそろって渋い顔で振り向いた。 「刺激物はまだダメって、先生に言われたじゃん。カフェインだってアウトでしょ」 「何を考えとるんだ、馬鹿たれが。お前は水だ」 「えー」と不服そうに声を上げる夫を遮るよう、カーテンが閉まる。大のコーヒー党で、一日に何杯も飲む夫には、少し辛いのかもしれない。 茉莉は柵の上で頬杖をつき、呆れたように父親を見下ろす。 「ダメじゃん、お父さん。せっかく良くなったんだから、退院まで我慢しなよ。っていうかこの際、いい機会だしカフェイン中毒治したら?」 「本当ですよ。まったく、子どもに言われるなんて情けない」 普段は温厚な義母にまで責められ、肩身が狭そうにベッドの上で肩をすくめた。 「参ったな。あれ、お母さんどこ行くの?」 「ちょっと、お手洗い」 そっとカーテンを閉め、病室の扉を開けた。 平日より静かな廊下を歩いていると、ふと、今日がゴールデンウイークの最終日だということに気づく。 例年より慌ただしい、あっという間の連休だった。
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