間章 不可解な死

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「…………?」 トイレを済ませ、手を洗っていると奥の個室から呻き声が聞こえた。 「うう、ううっ……」 低く、辛そうな声に思わず振り返る。唸り声と共に、時折、びちゃびちゃと嘔吐するような音が混じった。 ひどく苦しそうな声音(こわね)に、聞いている私まで胃がぎゅうっと締め付けられる。 声をかけた方がいいのだろうか。でも、個室の中にはナースコールが設置されている。 ケホケホと、咳き込む音がトイレの中に響き渡った。ナースコールのブザー音は一向に鳴る気配がない。 オロオロと迷いながらも、一番奥のカギがかけられた個室に近寄る。 もしかすると、二日酔いで吐いているだけかもしれない。車椅子対応の個室ではないし、トイレに自力で来ているのだから、少なくとも重病患者ではないだろう。 不意に咳が止んだ。カラカラと、ペーパーが回る音がする。 しばらくすると、水を流す音が聞こえてきた。どことなく安堵し、そっと個室から離れた。 洗面台で髪を整え、ファンデーションとグロスを塗り直す。昨日まで、ろくに寝ていなかったせいか、肌も唇も荒れ、目の下には黒々とクマが浮いていた。 クマを隠すよう、ファンデーションをたっぷりとスポンジにとって塗りたくる。 カチャリと鍵が開く。横目で窺うと、白衣を着た女の人がフラフラと個室から出てくるのが見えた。 危うい足取りで私の横まで来ると、蛇口をひねって水を出す。 吐瀉物のすえた臭いが、わずかに漂ってきた。 顔を洗おうと女性が屈(かが)んだ瞬間、「うえっ」と不吉な呻きを漏らした。そのまま洗面台にしがみつくき、再び吐き始める。 「大丈夫ですか!?」 反射的にファンデーションを置き、うずくまった背中をさすった。 ふと、出しっぱなしの水道水に流されてゆく吐瀉物を見ると、ほとんどが水のような液体だった。おそらく、何度も吐いたせいで胃液しか出てこないのだろう。 「あの、看護師さんを呼んできましょうか?」 「…………大丈夫、です。ごめんなさい」 かすれた声で、苦しそうに返事をする。 ゆるゆると顔を上げると、手で水をすくって口を濯(ゆす)いだ。
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