第二章 晩春の嵐 後編

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半分ほどジュースを飲み干してグラスを置き、姿勢を正した。 「……姉ちゃんから聞きました。一昨日の夜に、鳴渡浜で起こったこと」 クッキーに手を伸ばそうとした手を、姉ちゃんが慌てて引っ込める。 「僕のお父さんは、四月の中ごろから心臓の病気で大学病院に入院しているんですけど、少しおかしな体調の崩し方をしました。狭心症で入院し、カテーテルの手術を受けたんです。主治医の先生は手術は成功したからすぐ退院できると言いましたが、手術後にどんどん体調が悪くなっていったんです」 お父さんがメタボ気味だと医者から指摘を受けたのは、去年の春の健康診断のことだ。もともと、ドカ食いでストレスを解消する悪い癖があった。買い食いや外食が大好きで、肉や炭水化物が大好きな、典型的な「太る人」の食習慣だった。 お母さんはそれを嘆いて、食事療法でお父さんを痩せさせようとした。 でも、お父さんが真面目にダイエットしたのは初めの一ヵ月くらいだった。度重なる過労や、そこから来るストレスのせいか、お父さんの過食はなかなか治らなかった。 結局、今年も健康診断に引っかかり、再検査を三日後に控えた四月の中旬に職場で倒れた。 だからお父さんが狭心症になったこと自体は、別に変じゃない。 でも―――――――― 「手術は成功したはずなのに、なぜ体調が悪化するのか、その原因が分からないとお医者さんが言っていました。何度か精密検査をしたけれど、合併症や後遺症は見つからなかったんです」 入院して四六時中モニターで心臓の様子をチェックし、食事や投薬などで、きちんと病院側に体調管理をされている。にも関わらず、お父さんはどんどん衰弱していった。 あれだけ食べることが好きな人だったのに、食事もほとんど喉を通らなくなった。ぽっちゃりした体は日に日に痩せ、どんどんやつれてゆく。 僕と姉ちゃんの前では平気なふりをしていたけれど、誰の目から見ても入院する前の方が健康的だった。
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