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まるで心の中を見透かすような真っ赤な瞳を、真正面からじっと見つめ返す。
「……絶対に、呪術をやめさせます。どうやって止めるか、方法はまだ分からないけれど」
目を逸らさず、あらかじめ準備しておいた答えを口にする。
九条さんは小さく頷くと、姉ちゃんの方を向き直った。
「茉莉ちゃんは?」
「私はっ…………えっと、まだよく分からないです。何だか、一昨日からずっと頭が混乱したままで。でも涼も言ったけど、まずお父さんに呪いをかけるのを止めてもらわなきゃいけないです。それで……」
姉ちゃんの口調が、話しているうちにどんどん委縮してゆく。
気持ちは分からなくもなかった。僕だってここ二日間、自分の言葉や考えに対する現実感の乏しさに、どこか違和感をぬぐいきれない。
そもそも呪術だの呪いだの、そんな非常識で反社会的なことを、人前で自信満々に大声で話す方がおかしい。
でも、僕も姉ちゃんもそんな非常識で反社会で非現実的なことを、一昨日の夜からずっと考えている。
自分が今まで常識で当然だと信じ込んでいたものと、実際に周囲で起こっていることが、少しずつズレ始めている――――そんな感覚だった。
「その人がどうしてそんなことをしたのか、理由が知りたいです……」
自信がなさそうにそう言うと、いたたまれなさそうに少し俯く。
九条さんはわずかに目を細め、薄く笑みを浮かべた。
「…………若さって、いいわね。嫌いじゃないわ、こういうの」
肯定とも単なる独り言ともとれる呟きに、姉ちゃんは弾かれたように顔を上げる。
「じゃあ……!」
「うん、少しお話ししましょ。ちょっと難しいっていうか、君たちにはあまり馴染みの無い話だと思うけど」
ちょっと待っててね、と言い残し、九条さんはソファから立ち上がって部屋の奥へ向かった。
事務デスクの引き出しを開くと、中から小さな桐箱を取り出す。
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