第二章 晩春の嵐 後編

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類感呪術と感染呪術――――その二つを合わせた「共感呪術」。 イギリスの文化人類学者・ジェイムズ・フレイザーは、呪術の性質を大きくその三つに分類した。 「もう一つの“感染呪術”は、主に物理と知覚の二種類に分けられるの。物理的な方法では、ターゲットが身に着けていたものに呪術を施すことで、呪いが本人にまで作用するというもの。丑の刻参りの藁人形に、ターゲットの髪の毛を忍ばせるっていうやつね。髪の毛だけじゃない、衣服や帽子、靴、アクセサリーとかの装飾品、爪、皮膚、体液、更にいつも使っていた道具まで、割と何でもあり。ターゲットと接触した“モノ”と、その持ち主である本人とは何らかの繋がりがあるっていう考え方が、呪術だけじゃなくって魔術や宗教でも根深く信じられているの」 身振り手振りを交えた九条さんの説明に、姉ちゃんが微妙な顔で頷く。 理解できなくもないけど、自分が理解したと思ったことが正しいかどうか、自信がないんだろう。 「知覚的な方は、文字通り見たり聞いたり触ったり、その存在を知ったり感じたりすることで引き起こされる“感染”の呪術だね。物理的な“モノ”とは別の、“知覚”――――まあ“感覚”っていうのかな。見ると呪われるビデオや絵とか、聞くと呪われる歌とか。知ると同じ目に遭う怪談とか、都市伝説とかって聞いたことない?」 「えっと“ブラッディーメアリ”とか“カシマさん”とかですか?」 おずおずと、姉ちゃんが都市伝説の例を挙げる。 どちらも「存在を知った者のところに現れる」という、典型的な怪談だ。 「へえ、今はそういうのなんだ。怪談かな?どんなお話?」 九条さんが姉ちゃんへと話を振った。 「私も友達から聞いただけですけど、昔、メアリーっていう…………」 緊張でたどたどしく話す姉ちゃんの説明を、九条さんは時々頷いたり、短く相槌を打ちながら、根気よく耳を傾ける。
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