第二章 晩春の嵐 後編

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姉ちゃんが一通り説明を終えると、九条さんは「そうそう」と頷いた。 「そういう都市伝説や怪談に限らず、存在を知ったり、実物を見たり聞いたり触ったり、そういう“触れた人間”が次の犠牲者になるっていうやつ。呪術ではこれを逆に利用して、爪とか髪の毛とか、ターゲットが身に着けていた“モノ”に呪いをかけることで、本人が知らないところで、ターゲットと呪いを接触させるのね」 二人の話を聞きながら、頭の片隅で何かが引っかかった。 「……………………」 にわかに考え込んだ僕を、九条さんが覗き込む。 「涼くん、どうかした?」 記憶に靄(もや)がかかっているようで、それが何なのか思い出せない。 「いえ、類感呪術と感染呪術の二つをあわせた“共感呪術”って何だろうって思って……」 そう尋ねられ、とっさに話を逸らした。 思い出せないことをいつまでも考えていても先に進まない。そのうち、また思い出すだろう。 「ああ、共感呪術ね。丑の刻参りがまさにそれで、藁人形を人間に見立てて釘を打つっていう“類感呪術”に、殺したい人間の髪の毛とか爪を入れるっていう“感染呪術”の原理をミックスしているでしょ」 ネットで調べた時、「類感呪術」と「感染呪術」は比較的わかりやすい説明を読むことが出来たけれど、「共感呪術」についてはあまり深く触れられていなかった。 Wikipediaに至っては、記事すら無かったほどだ。 「……それは単なる手順なんですか? それとも、二つの要素を合わせることで、より呪術が強化されるんですか?」 「その両方だね。ターゲットに見立てた人形に、更に“感染”の原理をプラスすることで、より確実に人形をターゲットに近づける、とか。共感っていうのは、模倣と感染、二つの要素をうまく併せて、呪いとターゲットを互いに繋(つな)ぐことだから」 ネットを見ただけではきちんと分からなかったことが、九条さんの説明でやっと腑に落ちた。 僕は呪いやオカルトなんて信じたことはない。 そういったものは大体、願望や恐怖、罪悪感といった人間の心の中が、歪んで現れたものだと決めつけていた。 正直、今も「呪い」なんて、呪術を行ったところで本当に実現するのか、甚(はなは)だ疑問だった。 今回だって、一昨日の出来事が無かったら「呪術」について調べようとは思わなかっただろう。
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