第二章 晩春の嵐 後編

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晩ご飯を食べ、お風呂に入って二階へあがる。 ノートパソコンを立ち上げ、インターネットに接続する。 九条さんから聞いた話の内容を調べ、例の掲示板やブログをチェックしていると、ガチャリと部屋の扉が開いた。 「何見てんの?」 半乾きの髪の毛をタオルで拭きながら、隣で画面をのぞき込む。 途端に、姉ちゃんは顔を引きつらせた。相変わらず、思ったことがすぐ顔に出るタイプだ。 「げっ……何でこんなの見てんの?」 「更新されてないかと思って」 鳴渡浜の話題で連日、異様な盛り上がりを見せる掲示板とは対照的に、フォーチューンドールの呪術を記録した例のブログは、1月6日で更新が止まったままだった。 「…………このブログ書いた人も“呪詛返し”にあったのかなあ」 画面を眺めながら、姉ちゃんがポツリと呟く。楽天的な性格で、良くも悪くも無邪気な姉ちゃんの口から「呪詛」という言葉が出たことに、たとえようのない違和感を覚えた。 さあ、と相槌を打ち画面を切り替える。 姉ちゃんは僕から離れ、向かい側に座布団を敷いて座った。カバンから問題集やノートを取り出し、机に広げた。 「まだ宿題終わってないの?」 思わず尋ねると、姉ちゃんは決まりが悪そうに口ごもった。 「う……ちゅ、中学生は連休明けにテストがあるの!それに、あと少しで終わるもん!」 夏休みの宿題を8月31日の深夜に終わらせる計画性の無さは、中学生になっても健在だった。 静かな部屋に、シャーペンを走らせる音がかりかりと響き始める。 余裕のない顔で問題集と格闘する姉ちゃんを片目に、パソコンをシャットダウンさせた。 「じゃ、僕は寝るから。頑張って」 「待って!ヒマならこれ手伝って!!」 「……あと少しで終わるんじゃなかったの」 「お願い!!」 切羽詰まった声で叫ぶと、僕に向かって漢字問題集を突き出す。 仕方なくパソコンを脇にどけ、問題集を開くと見事に白紙だった。
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