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第一章 晩春の嵐
ぬるい狂風と大雨が、体を叩くように吹きつけてくる。
激しく波立つ海の水面は鈍い色をして、海岸に打ちつけるたび、ぶつかり合った海水が白く泡立った。
怒りに狂うような荒波がうねり、まるで海が吠えるような、ごうごうと低く重い潮騒と、吹きつける強い風が、互いの音を打ち消し合うように響き合う。
いつもは青く、穏やかできれいな海も空なのに、今はまるで鉛のように暗く重たい灰色にくもり、にごっているのが、何故か無性に哀しかった。
――――台風が来るんだ。
時化の海には、決して近寄ってはいけない。
ここにいたら危ないことなんて、小さな子どもでも一目瞭然だ。
引き返さなきゃ。こんな日に外に出てちゃ、いけない。
早く、家に帰らなくちゃ。
そう思っているにも関わらず、荒れ狂う水面はどんどん近付いてくる。
海が近付いてくるんじゃない、私が海に駆け寄っているんだ。
「えっ!?」
ふと、水面に小さな船が浮かんでいることに気付く。漁船だ。時化の海にはあまりに頼りなく、小さな船。
高波に揺られて、まるで木の葉のように船が揺れる。
ちらりと、帆先に人影がよぎった。
まさかこんな嵐の海で、船に乗っている!?
高波に翻弄される小船は、いつひっくり返ってしまってもおかしくない。
こんなの、自殺行為だ。一体、どこの誰が――――?
「危ない!!」
帆の高さをゆうに超す大波が、船に覆いかぶさるようにひときわ高く盛り上がる。
しかし帆先に立つ人影は微動だにせず、高波に挑むようにじっと立っていた。
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