ヴァーミリオン・ゲート

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「こっちへは、観光で来たの?」 突然こちらを振り向かれ、あたふたと視線を泳がす。 「ええと…、観光といいますか…」 うまい言葉が見つからず、口ごもる私にーーー 「あ、もしかして、今流行りの自分探しってやつ?」 ーーーー向こうは冗談半分で言ったんだろう。 しかし何と答えたら良いか分からず、黙って相手を見つめた。 多分、今私はものすごく曖昧な顔をしているに違いない。 カドワキさんが、ははっと笑った。 「いやね、多いんだよね。 お嬢さんくらいの歳の人がさ、ふらりとこの辺鄙なとこにある店に迷い込むこと。 まあ、中々悩み多きお年頃だとは思うけどね」 自分だってそう違わないような年齢だろうに、まるで年寄りのようなことを言う人だ。 けれども、何故か安心させられてしまう、不思議な雰囲気が彼にはあった。 「悩み多き…か」 独り言のようにつぶやく。 「まあ、誰でも何かしらあるでしょ?人間なら」 目の前のカドワキさんがふわっと笑った。 その笑顔を見て、 自分でも感じたことの無いような感情が湧き上がるのが分かった。 「私…ちょっと愚痴ってもいいですか?」 急に、口をついてそんな言葉が出た。 言ってしまってから自分に驚く。 普段、絶対に人にそんなこと言わないのに。 しかも、さっき会ったばかりの見ず知らずの人だ。 しかし彼は驚きもせず、穏やかに微笑んだ。 「そっちに座ってもいい?」 こくりと頷くと、カドワキさんは微笑みながら向かい側の椅子に座った。 そして「どうぞ」と言うように目だけで話の先を促す。 また一つ頷いて、ゆっくりと口を開いた。 「私、今逃げてるんです」
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