ヴァーミリオン・ゲート

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「高梨くん、ちょっと話が」 「沙織、話があるんだ」 新規海外プロジェクトでの現地法人への出向の打診。 と、 学生時代から付き合っていた彼からのプロポーズ。 話があったのは、皮肉にも同じ日だった。 これが、少しでも時期がずれていて、どちらかが先だったら、あるいはこんなに悩まなくてよかったのかもしれない。 言い換えれば『仕事』か「彼』か。 一昔前の、安いドラマのような選択肢だ。 現実は、そんなに単純な話ではない。 赴任先では、メインとまでは行かないけれどそれなりに責任ある立場を任せてもらえると言われた。 しかし行けばプロジェクトが軌道に乗るまで…最低3年は日本には戻れない、とも。 一方彼の方は、仕事は続けていいと言ってくれてはいるけど、結婚後はこれまでのような働き方はやめて欲しいと思っているに違いない。 ましてや海外赴任なんて、受け入れてもらえないだろう。 出向を断れば、きっと役割は現状維持のアシスタントのまま。 いや、まだまだ男社会の風潮が色濃い業界、今まで以上に裏方に回されてしまうかもしれない。 どちらかを取れば、もう片方を手放さなきゃいけないことは、避けられそうもなかった。 会社にも彼にも、月末納期の大きな仕事が終わってからゆっくり考えたい、と返事を保留している。 その仕事は昨日、無理矢理前倒しで納品して高速バスに飛び乗った。 学生時代、好きでよく通ったこの場所。 ここに来れば、素直な気持ちで自分に向き合えると思ったから。 ーーーー東京に帰ったら、答えを出さなくては。 そう思いながらここまで来たけど。
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