ヴァーミリオン・ゲート

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高速バス終着地である、巨大なターミナル駅のビルが眼前にそびえ立つ。 早朝の空気が、キン、と冷たい。 いつもなら肌に大気が纏わり付くこの季節も、この時間ばかりは清涼な空気を胸に吸い込むことができる。 あの頃と同じように、まずはモーニングで腹ごしらえすることにした。 違うのは、かつては新幹線改札にほど近いファーストフード店で済ませていたところを、今回は少し線路沿いを歩いて、こじんまりとして古びた喫茶店に入ったことだ。 通り抜けた駅周りは自分の記憶の中のそれより近代的になっていて、少々戸惑う。 厚めのトーストをかじりながら、店主と常連らしき客が話している言葉を聞いて、ああ、この地にまた来たんだな、とやっと実感が湧いた。 駅前のバスターミナルの案内所で、一日券を買うと、折り畳み式の大きなマップを渡された。 目的地に合わせて市営バスを乗り継ぐにはどうしたらいいかが分かりやすくカラー刷りで示してある路線図だ。 大学の頃は、これを片手にあちこち回ったっけ… 懐かしみながらも、紙面のデザインの変化に、時の移ろいを感じられて、どこか寂しくなる。 さあ、目的地への、バス乗り場は… 弾みを付けるように、勢い良く顔を上げた。
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