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雪女は冷笑を浮かべながら裂けそうになるくらいに口を吊り上げた。
血のように紅い唇の奥からは鋭く尖った歯が覗いている。
大和は恐怖のあまり雪女から逃げようとするが、足が思うように動かず、すぐにもたついて転んでしまう。 圧倒的恐怖というものを植えつけられた彼の脳内には、最早思考というものなど存在しなかった。
(今すぐここから逃げないと…!!)
その言葉だけが彼の体を突き動かす。
転んでもなお地を這いつくばって逃げようとする大和に、雪女は依然冷笑を浮かべたままジリジリと大和を壁際へと追い詰めて行く。
当然壁際まで追い詰められているということに彼は気づいていない。
彼女のその暗闇に満ちた表情には、何年ぶりか分からない程に人間を喰らうことができるという悦(よろこ)びそのもの。
だが反対にそれは彼女が山椒魚のことを“忘れている”ということにもなる。
「来るな…来るなぁああああああ!!!!」
絶叫する大和を遂に壁際まで追い詰めた雪女は、もうこれ以上動くことの出来ない彼に顔を近づける。
鋭い歯を光らせながら…
(もうダメだ…!!)
大和が心の中でそう思ったその瞬間…
雪女の体を緋色の炎が包み込んだ
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