第1章

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「なんなんですか、これ」 おかっぱ娘からギターを受け取り、 「弾いてみて。大丈夫だから」 そう言われて、自然と手が動く。 体育館でたった一度聴いた曲が、体からギターに吸い込まれるように流れ込んでいく。 何かと一体化するような、しびれるような心地よさが指先から全身へと満ちていく。 気づけばその場にしゃがみ込んでいた。 「お疲れ様。動画取ったけど、観てみる?」 「はぁ? 勝手に撮るなよ、おかっぱ娘!」 おわ、やべっ。これでも先輩じゃん。 「物心ついたときからおかっぱだもん。花巻水乃っていう名前もあるのに」 おかっぱ娘は、頬をふくらませて、俺をにらんだ。 ――めっちゃ、かわいい。 いやいや、チャラ男になっても、幼なじみの初恋相手はダメだろ。 前言撤回。 「私のことは、水乃って呼んで。苗字で呼ぶのは意味がないから」 「水乃先輩でいいですか?」 「違うっ! 呼び捨て」 あら、耳まで赤くなってる。 「みず……の?」 「うん、それでよし」 水乃はケースにギターをしまい、部室の隅に置いた。 「俺、楽器やったこともないのに、どうして初めて聴いた曲が弾けたんだ?」 水乃は俺の横に座り、話し始めた。 「あり得ない話だけど、あのギターが人を選ぶのよ。この部では有名な話。全く楽器出来なかった私も一年前に結城みたいに選ばれて、今では人並み以上の腕前になっちゃった」 「まあ、ギターに引き寄せられるのは体感したから受けとめるとして。それが何を意味しているか、だな」 ――俺、珍しく飲み込み早いな。
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