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「なんなんですか、これ」
おかっぱ娘からギターを受け取り、
「弾いてみて。大丈夫だから」
そう言われて、自然と手が動く。
体育館でたった一度聴いた曲が、体からギターに吸い込まれるように流れ込んでいく。
何かと一体化するような、しびれるような心地よさが指先から全身へと満ちていく。
気づけばその場にしゃがみ込んでいた。
「お疲れ様。動画取ったけど、観てみる?」
「はぁ? 勝手に撮るなよ、おかっぱ娘!」
おわ、やべっ。これでも先輩じゃん。
「物心ついたときからおかっぱだもん。花巻水乃っていう名前もあるのに」
おかっぱ娘は、頬をふくらませて、俺をにらんだ。
――めっちゃ、かわいい。
いやいや、チャラ男になっても、幼なじみの初恋相手はダメだろ。
前言撤回。
「私のことは、水乃って呼んで。苗字で呼ぶのは意味がないから」
「水乃先輩でいいですか?」
「違うっ! 呼び捨て」
あら、耳まで赤くなってる。
「みず……の?」
「うん、それでよし」
水乃はケースにギターをしまい、部室の隅に置いた。
「俺、楽器やったこともないのに、どうして初めて聴いた曲が弾けたんだ?」
水乃は俺の横に座り、話し始めた。
「あり得ない話だけど、あのギターが人を選ぶのよ。この部では有名な話。全く楽器出来なかった私も一年前に結城みたいに選ばれて、今では人並み以上の腕前になっちゃった」
「まあ、ギターに引き寄せられるのは体感したから受けとめるとして。それが何を意味しているか、だな」
――俺、珍しく飲み込み早いな。
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