第1章

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「水乃さん、今日も満員御礼ですよ。ゆきさんもお疲れ様です」 舞台の袖から降りてきた水乃は、俺を見て抱きついてきた。 「ゆきー、最高だったぁ!!」 「当たり前だろ。馬鹿か、お前」 水乃の背中をぎゅっと包み込んだ。 俺は結局、ギターによって導かれた運命をなぞっていた。 水乃がためらっていたこと。 今では十分わかっていた。 そうだよな、あれを女に言わせちゃいけない。 「水乃、俺の女になれ」 あの頃は生意気で融通の利かない、ただのおかっぱ娘だったガリ勉水乃が。 今では俺にとって、最高にかわいいおかっぱ女になった。 これがギター伝説ってやつか? それならそうで、俺は受け入れてやる。 運命も水乃も。 だから、もも。 悪いな、こいつだけは譲れないんだ。 「あははは、大きな勘違いしてるよ?」 相変わらず無邪気に笑うな? もも。 「僕が好きだったのは、花巻先輩が舞台でギターを弾く姿。初恋はゆきに言ってないよ?」 ああ? なんだ、勘違いしていたのは、俺だったのか。 「僕の初恋は、バンド部部長の綾さんだよん」 ――部長、だ、と!? 水乃に降り回されて、周りの女子をよく見ていなかったが。 今思えば、綾部長は開花してたな。 なんで今頃気づいたんだ!! ギター伝説って、もしや水乃の執念がもたらしたものなのか? ――ま、今となってはどうでもいいことだな。 俺の隣にいるのは、水乃で。 それを一番に望んでいるのは、俺なわけで。 あえて予想外なことを上げるとすれば、水乃の歌唱力。 爆発的なパワーと幅広い音域、そして透明度の高い歌声は、個性的なヴォーカリストのカリスマとしてその名をとどろかせている。 水乃の声に合わせられるギタリストは、やはり俺しかいないんだけどな。 俺を選んでくれた運命のギターは、今でも徳田高校の後輩に受け継がれている。 そしてこれからも 誰かを導き続けるのだろう。 Fin
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