第1章

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 家に帰るといつもユウがいた。  家族支援モデルとして作られたユウは僕が小学生の頃から20代の女性の姿をしていて、家に着くといつもキッチンで夕食を作っていた。  僕に両親はいない。  小さい頃、列車事故に巻き込まれ両親は死に、僕はそれまでの記憶を失い火傷の跡だけが残った。  だから家にいるのはいつもユウだけだった。  テーブルに並ぶ食器は一人分だけ、それでも食事をする時ユウは家事を手を止め、夕食を食べ終わるまで同じようにテーブルに座り僕を待っている。だから夕食はユウがエプロンを椅子に掛け終わるのを待ってからだ。    テーブルの上の食事は一人分だけ。ユウのご飯はなくても、一緒に手を合わせ「いただきます」をする。  ユウは作法や礼儀に厳しい。  箸の持ち方から始まり、敬語やマナー、勉強に関しても妥協するような事はなかった。  そのせいか高校時代の僕は擦れていた。食事の時に一緒にいただきますをするのも、今日の出来事を話して一緒に宿題をやるのも、どれも小学生の時から何一つ変わらず、それが子供扱いされているようで馬鹿にされた感じがしていたからだ。  いつしかユウに反発するようになり、学校をサボるとだらだらと街で過ごし夜中に帰っては、ビニールラップに包まれたご飯の前で待つユウを無視した。  馬鹿だった、分かっていなかったのは僕の方だ。  そんな事をしていたある日、僕は警察に捕まった。ゲームセンターで時間を潰していたら不良に絡まれ、揉み合いになり一緒に警察に連れて行かれた。  僕自身は口頭注意で済んだものの、事態が悪化したのはユウが僕を引き取りに来てからだ。警察はアンドロイドのユウが僕を迎えに来ているのが分かると目の色を変えた。  どうして親が迎えに来ないのかとユウを問い詰め、黙ったままのユウの態度が気に入らなかったのか、警察官はユウの髪を掴み強引に顔を引き上げるまでした。  慌てて僕が事情を説明すると、「アンドロイドだからこうなるんだ」「アンドロイドが親を勤められる訳がない」とまるでユウが原因かのように言う警察。  散々警察に言われた帰り、僕らは久々に並んで歩いた。  僕はユウの歩調に合わせながら、ちらちらと様子を伺う。項垂れていて表情が見えない。  僕は「ごめん」って言いたくて、とぼとぼと歩いてるユウの手を握るとユウは「大丈夫だから」と笑って見せた。
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