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ユウが自首した。
膝の上にある電子手錠の重みがだけが、ずっしりとのし掛かってくる。
新米の弁護士には何も出来なかった。
僕は膝の上に乗っているユウの手を握り返す事すら出来ないでいる。
「ごめんなさい」
海に溶けてゆく夕陽を見ながらユウが言う。
「アンドロイドが人を殺してしまうなんてことは許される事ではないから」
表情を和らげながら微笑んで、ユウは言葉を切った。
車はうねった海岸線の道を進みながら、塔へと近付いて行く。塔の影が見えては消え、繰り返しの中で影は次第に大きくなっていった。
言葉が詰まる。悔しくて拳を強く握った。
そしたら僕は何の為に……
僕はずっと堪えていた事を口にしてしまった。
「それって親父の事なんだろ」
ユウが顔をはっと上げる。
「あの時の記憶は思い出せないって」
「それは今も変わらない。あの頃の記憶は未だに思い出せない、だけど」
気付かない筈がない。僕が警察に捕まった時ユウはずっと家族の事を説明しようとしなかった、列車事故だった筈なのに何故か僕の背中に火傷の跡が残っている。それにアンドロイドが親をしている家族なんて過去に何かあったとしか思えない。
「バレバレだよ」
ユウは一度視線を外し、それから申し訳なさそうに僕を見直した。
「全然気付きませんでした。そんな素振り見せないし……これでは意味ありませんでしたね。ずっとヒロを騙していました。これは謝っても許される事ではないと思っています。私がオーナーいえ、あなたの父さんを殺したんです」
「やっぱりこの火傷はその時の?」
背中が疼いて、僕が手を伸ばすとユウはゆっくりと頷いた。
「あなたのお父さんはある時から精神を病んでしまわれて、病んでからはあなたに強く当たるようになりました。それがエスカレートして、ヒロはまるでオーナーの玩具のような扱いでした。私は、それを見ているのに耐えられなくて……」
ユウが深く頭を下げた。
ユウに人は殺せない。何故なら彼女はアンドロイドだ。通常なら組み込まれたプログラムが働いて人を殺す事は出来ない。
きっと事故だったんだ。僕を守ろうとして、そうに違いない。
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